あらゆる先入観を取り払って、もういちど掛け軸と向き合ってもらいたい――
そんな思いから今回ご提案するのは、川村悦子氏による「聯」に描かれた「蓮」です。
「聯(れん)」とは、書き初めなどに使われる半切という紙を、さらに縦半分にした大きさを言います。巾が狭いため扱いやすく収納もコンパクトで、身近にお楽しみいただけます。
今回、ぜひ「聯」に作品を描いていただきたいとお願いしたのは、情緒あふれる写実画を油彩で描く川村悦子氏でした。大きなキャンバスに油彩画を描くことが多い川村氏に、極端に細長い、しかも和紙に絵を描くという、今までにないお願いをいたしましたが、作品の出来上がりは想像を遥かに超えた素晴らしいものとなりました。蓮池や草の茂みなどの大きな空間がごく細長い聯の形に切り取られることで、描かれていない部分への想像が広がり、植物の息遣いが画面を超えて空間を満たします。
一幅でも独立する聯は、二幅、三幅と連ねればまた違った空間を展開し、その魅力は無限です。
現代建築では和室が減り、洋間には額装作品を飾ることが常識的になってしまっていますが、欧米ではリビングや玄関で掛け軸を楽しまれるなど、掛け軸の新しい魅力が見直されています。
掛け軸は扱いが難しい、床の間でないと合わないという気持ちからぜひこの機会に自由になっていただき、新しい美術品の形をご覧いただければと存じます。