思文閣は、東京現代 2023に、アジアを拠点に活躍するふたりの現代美術家を紹介いたします。ひとりはシンガポールを拠点とする女性作家ジェーン・リー(Jane Lee)。もうひとりは遠野で創作する画家、本田健。ふたりはほぼ同世代の作家ながら、制作拠点は熱帯気候と亜寒帯気候、互いに面識はなく作風も全く異なります。しかし彼らの独創的な発想と表現、制作に対する意識と姿勢には共通するものがあります。
ジェーン・リーは、絵画に対する伝統的な観念を打ち破り、絵画を構成する素材自体を主役にし、作品自体へと変容させます。彼女の作品は、触覚的で感覚的であり、物質とイメージ、色彩と体積、奥行きと平面など、その要素との対話が生まれる魅力を持っています。
一方、本田健は、杉木立の森を描くチャコールペンシルによるドローイング作品と花や野菜など身近にあるものを色彩豊かに描く油彩、ふたつの異なる表現で知られます。
チャコールペンシルで写真を執拗に描き写していく描写は、自我を排して自己を限りなく無為に近づける独自の表現であり、油彩画は、彼にとって情感や意識、自我が前面に出る表現。本田は、この異なるアプローチで相互に補完し合いながらバランスを保っています。
本展では、ジェーン・リーの作品《Fetish P8》(2009)を含む初期の代表作、本田健のチャコールペンシルによる大作、《山あるき―三月》(1994)ほか、油彩画は2023年の新作も出品いたします。ふたりの作品の共演は、純粋な美しさと強い生命観に満たされる空間を作り出すことでしょう。