著者・編者略歴

くどう みわこ……1972年福岡生.2005年佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了.博士(文学).

内容

願文とは、法会の主催者である願主が、仏に願意を述べる文章である。従来は、定型句をつかった儀礼的な言葉に過ぎないとみなされ、その内容については分析されてこなかった。しかし、本書では、願文自体が何を語ろうとしているのか分析することで、天皇から中下級貴族・女性・僧侶にいたる人々の仏教理解や具体的信仰のあり方、所属する社会集団内部でのそれぞれの構成員が果たした公共的な役割、寺院や僧侶と世俗社会との関わり方、具体的な宗教的実践のあり方を明らかにする。
学僧の教学、在俗者たちの現世利益的傾向、ごく一部の熱烈な仏教者の存在といった、かつての信仰のカテゴリーを再検討し、新たな仏教史の視座を提示する意欲的な一書。

目次

緒 言

第Ⅰ部 9世紀の願文にみる仏教的世界観
 
第一章 慙愧する天皇―九世紀における天皇の仏教的役割
 第一節 菅原道真以前の願文の特色
 第二節 『菅家文草』の願文にみる天皇の仏教的役割
 第三節 垂迹する宇多天皇
 
第二章 摩頂する母―菅原道真の願文にみる母と子
 第一節 母の「遺教」と子の「追福」
 第二節 「利他」と「自利」
 第三節 「五障」と即身成仏
 第四節 『転女成仏経』をめぐって
 第五節 天皇と母をめぐって
 
第Ⅱ部 10~11世紀の仏教的世界観(一)―願文を中心に

第一章 忠を以て君に事へ、信を以て仏に帰す―10~11世紀の願文と転輪聖王
 第一節 8世紀以前の金輪聖王観
 第二節 9世紀の金輪聖王観
 第三節 10~11世紀の金輪聖王観―村上天皇をめぐって
 第四節 金輪聖王としての一条天皇
 
第二章 現世の栄華の為でなく―藤原道長の願文とその仏教世界
 第一節 藤原道長と浄妙寺(一)―「左大臣の為の浄妙寺を供養する願文」について    
 第二節 藤原道長と浄妙寺(二)―「同寺塔供養願文」について
 第三節 孝文帝と南岳慧思―一条天皇の死をめぐって
 

第三章 安養の院と覩史の宮と―平安期の願文にみる浄土信仰   
 第一節 『菅家文草』所収願文にみる浄土の多様性
 第二節 『本朝文粋』所収願文と菩薩の化身
 第三節 『日本往生極楽記』と浄土信仰

第Ⅲ部 10~11世紀の仏教的世界観(二)―「空也誄」から『三宝絵』へ―

第一章 王事と仏那と白楽天と―平安期の「池亭」をめぐる言説   
 第一節 「池亭」の系譜―兼明以前
 第二節 兼明親王の「池亭記」について
 第三節 慶滋保胤の「池亭記」について
 第四節 「池亭記」以後
 
第二章 「空也誄」と『三宝絵』の構造と差異―「スヱノヨ」の仏教とは何か
 第一節 「空也誄」にみられる空也像について
 第二節 『日本往生極楽記』にみる空也
 第三節 「スヱノヨ」の仏教
 
第Ⅳ部 院政期の願文にみる仏教的世界観

第一章 未だ欲を離れざれば―『江都督納言願文集』にみる転輪聖王観
 第一節 金輪聖王か「極楽の新しい主」か―後三条天皇の死
 第二節 天下の品秩破る也―白河天皇
 第三節 堯・舜・釈迦・慈氏・金輪聖王―堀河天皇     
 第四節 「新しき仏」として―堀河天皇の死
 第五節 金輪聖王に生まれて―鳥羽天皇
 第六節 「極楽の新しき主」とは何か
 
第二章 「禅定仙院」白河論
 第一節 「禅定仙院」とは何か
 第二節 白河の死―普賢菩薩への転生
 第三節 「金剛不壊」の身体―鳥羽と即身成仏
 
第三章 竜女・釈女の智恵を得む―『江都督納言願文集』にみる女性と即身成仏
 第一節 『江都督納言願文集』以前の願文にみる「五障」
 第二節 『江都督納言願文集』のなかの「五障」
 第三節 『転女成仏経』と「諸仏の母」
 
初出一覧
あとがき
索  引

紹介媒体

  • 『日本史研究』567

    2009年2月20日

    曾根正人

    書評

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