◎伊勢物語を題材とする絵画、書跡、工芸などの造形約一五〇点に焦点を当て、表現の多様性や創作の独自性を解説。雅な王朝文化の象徴である伊勢物語絵の受容のあり方に、造形表現の観点から迫る。
◎本編では、伊勢物語を題材とする造形表現の幅広い展開を、各作品を所蔵する美術館・博物館の学芸員を中心とした執筆者約六〇名による解説と、豊富なカラー図版によって明示。
◎伊勢物語絵の専門研究者陣による総説と論考、伊勢物語絵を読み解くにあたってかかせない画題を個別に分析する「モチーフ集」、より広範なテーマを扱う「コラム」を収載。巻末には作品総覧・所蔵館情報などを掲載。
◎伊勢物語をはじめ、物語絵研究をこころざす入門者から専門家まで、必携の一書。
★★★編集からのひとこと★★★
伊勢物語は、古典であるとともに、現代日本にもその物語世界の断片が息づく、たぐいまれな文芸作品です。たとえば京都で「八橋」といえば、「あのお菓子」を想像する人もいるでしょう。「やつはし」は現代でも耳にする機会の多い言葉である一方、「八橋」の向こうには、伊勢物語をふくめ、深遠な世界が広がっています。
それから、「あのカキツバタの絵」を想像する人もいるでしょう。伊勢物語を通じて、絵画や書、工芸品などかずかずの作品が生み出されてきました。つまり、伊勢物語はその発生から現代にいたるまで、創作にあたっての貴重な、いわば「元ネタ」(オリジナル、本歌)として、君臨してきたわけです。
本書で解き明かされるのは、いかに伊勢物語が、多くの造形物を生み出す源泉となったかということ、そしてその「造形表現」の面での広がりを、ビジュアルと本文の双方から、読者にこれでもか! これでもか! とうったえかけるものです。その範囲は実に多様で、あらゆる造形物に伊勢物語世界がしみ込んでいることが、一目瞭然。
「元ネタ」や、モチーフの背後にある世界を知れば、鑑賞の楽しさも倍増すること、うけあいです。
イセモノガタリ ゾウケイヒョウゲンシュウセイ
伊勢物語 造形表現集成
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体裁B5判上製・432頁
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刊行年月2024年05月
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ISBN978-4-7842-2033-5
内容
目次
〔総論〕伊勢物語と造形/伊勢物語受容年表(河田昌之)
〔図版解説〕
絵画(絵巻・色紙/宗達・光琳・抱一ほか/岩佐・土佐・住吉・狩野ほか/屏風・画帖/見立て/浮世絵/業平像/版本・パロディー/かるた・合貝)
書跡(古筆・写本)
工芸(漆工/印籠/茶器・陶磁器/刀装具/染織/能面)
〔コラム〕
伊勢物語絵に描かれた住まいの表現―中世における白描本と香雪本から―(赤澤真理)
伊勢物語絵の王朝服飾としぐさ(伊永陽子)
伊勢物語絵のコレクターとコレクション―伊勢物語絵巻と蜂須賀家、福岡孝悌、スペンサー・コレクション、バーク・コレクション、鉄心斎文庫―(河田昌之)
伊勢物語の植物(寺田孝重)
伊勢物語絵に描かれた神社(米澤貴紀)
制作者たち―近世の画人を中心に―(河田昌之)
伊勢物語色紙絵の小袖(伊永陽子)
江戸後期の八橋図―伊勢絵の浮世絵における展開―(内藤正人)
二つの「業平寺」(米澤貴紀)
八橋の寺社にみる杜若の意匠(小山興誓)
業平の帯刀―嵯峨本『伊勢物語』の挿絵―(田村隆)
歌がるたを楽しむ(藤島綾)
鑑賞する書としての伊勢物語(惠美千鶴子)
輸出漆器にみる伊勢物語(永島明子)
伊勢物語と香りの文化(四辻秀紀)
都鳥の点描―江戸から明治へ―(大口裕子)
茶道具にみる伊勢物語(降矢哲男)
伊勢物語と日本陶磁(岡佳子)
刀装具の図案と下絵―伊勢物語モチーフの作例から―(内藤直子)
舞台芸術にみる伊勢物語―能における「形見」の機能と展開―(山内麻衣子)
伊勢物語の和歌と色彩・染色―第106段 龍田川詠を中心に―(森田直美)
伊勢物語と和菓子(中山圭子)
寛文七年の『御ひいなかた』改版をめぐって(河上繁樹)
〔モチーフ集〕
浅間嶽 尼・僧 雨 井筒 宴 宇津山 梅 杜若/燕子花 描く 書く 狩 菊 雉 行幸 警備する 琴 桜 鹿 しのぶずりの狩衣 隅田川 背負う 田・畑 龍田川 盥 月 露 鶏 波(浪) 幣 布引滝 火 武具 藤 富士山 文(手紙) 蛍 みかど・親王 都鳥 武蔵野 飯・粽 紅葉 八橋 雪 緑衫の袍 童(子ども)
〔論考〕
モチーフからみる伊勢物語絵―その多様な背景―(大口裕子)
伊勢物語の造形表現の領域の拡がり―歌仙絵にみる在原業平像の造形イメージの形成から―(河田昌之)
近世染織における伊勢物語の意匠―現存小袖資料の八橋模様ほか―(伊永陽子)
建築・庭園における伊勢物語の意匠―室内装飾・庭園の「八橋」を中心として―(赤澤真理)
〔附録〕
技法・用語解説/主要参考文献/伊勢物語絵の主な舞台/作品総覧(英訳タイトル付)/所蔵先一覧