1991年、北海道生。2018年、京都大学大学院文学研究科博士後期課程指導認定退学。2021年、博士(文学)。専門は日本中世絵画史、特に院政期絵巻。大阪大谷大学文学部専任講師を経て、2023年より佛教大学歴史学部講師。主な業績に、「《彦火々出見尊絵巻》に見られる名所絵的性格とその意義」(『日本宗教文化史研究』21巻2号、2017年)、「承安本「後三年合戦絵巻」の絵師明実と制作環境について」(『美術史』186号、2019年)。
ウシナワレタインセイキエマキノケンキュウ
失われた院政期絵巻の研究
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体裁A5判・358頁
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刊行年月2024年04月
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ISBN978-4-7842-2068-7
著者・編者略歴
内容
平安時代末期に制作された絵巻の諸作品は「院政期絵巻」と総称され、現存する最古の絵巻群として、早くから美術史学の研究対象として取り上げられてきた。一方で、多くは史料にその名が見えるものの原本が失われており、これらの作品が美術史学の研究対象として取り上げられる機会は少ない。
本書は、原本が失われた絵巻作品を積極的に取り上げ、模本によってその絵画表現を分析することなどを通じて、これらの作品を含めた院政期絵巻の再評価を試みたものである。
★★★編集からのひとこと★★★
後白河院が院政を敷いた12世紀後半、院の御願寺である蓮華王院の宝蔵には一大絵巻コレクションが形成されたことが知られています。そこにおさめられていた可能性のある絵巻は60件以上あったと推測されていますが、その内、原本が現存する作例は10件にも満たないものです。つまり、従来の美術史学では、ごくわずかな作例を元にして、院政期絵巻の全体像をイメージしてきたとも言えます。
本書はそのような現状に一石を投じるべく、「今、ここに無いもの」から考えようという逆転の発想による日本美術史学の本です。一人の若手研究者による、この勇気ある「一石」が一人でも多くの方に届くことを願います。
目次
序章 本書の問題意識・課題と作品分析方法・構成
はじめに
第一節 本書の問題意識
第二節 本書の課題と作品分析方法
第三節 本書の構成
第一章 承安本《後三年合戦絵巻》の絵師明実と制作環境について
はじめに
第一節 承安本及び貞和本の概要と先行研究
第二節 承安本に遡り得る貞和本中の表現
第三節 絵師明実と承安本の制作環境について
本章のむすび
第二章 承安本《後三年合戦絵巻》の制作目的と院政期絵巻における位置について
はじめに
第一節 承安本詞書としての『後三年記』採用の理由について
第二節 絵画表現の分析による検討
第三節 承安本の制作目的と院政期絵巻における位置
本章のむすび
第三章 後白河院政期における「似絵的表現」の機能をめぐって
はじめに
第一節 最勝光院御所障子絵と《年中行事絵巻》・《仁安大嘗会御禊行幸絵巻》における「似絵的表現」の意味
第二節 承安本《後三年合戦絵巻》における「似絵的表現」の意味
本章のむすび
第四章 《彦火々出見尊絵巻》に描かれた海辺の場景をめぐって
はじめに
第一節 巻一第一段の詞書と絵画の関係
第二節 巻一第一段に描かれた海辺の場景の淵源
第三節 住吉のイメージ
本章のむすび
第五章 《勝絵》の美術史的位置について
はじめに
第一節 《勝絵》「陽物比べ」の絵画表現分析
第二節 《勝絵》「放屁合戦」の絵画表現分析
第三節 《勝絵》の美術史的位置
本章のむすび
第六章 《異本病草紙》の美術史的位置について
はじめに
第一節 先行研究の概観と論点の整理
第二節 略本系所収諸図の絵画表現分析
第三節 《異本病草紙》の美術史的位置
本章のむすび
第七章 《福富草紙》における院政期絵巻の絵画表現の摂取について
はじめに
第一節 院政期絵巻に由来する絵画表現
第二節 《福富草紙》原本の制作背景
本章のむすび
終章 院政期絵巻研究の展望
はじめに
第一節 複数の作品に共通する志向と手法
第二節 尾籠な戯画の制作と享受
第三節 後世における院政期絵巻の受容
むすびにかえて
初出一覧/あとがき/主要参考文献/挿図出典一覧/索引/英文要約