京都工芸繊維大学特定教授・同大学美術工芸資料館長 日本美術史
おもな著書等に『近代京都の美術工芸―制作・流通・鑑賞―』(編著、思文閣出版、2019年)、『日本絵画の転換点『酒飯論絵巻』―「絵巻」の時代から「風俗画」の時代へ』(昭和堂、2017年)、『図案からデザインへ 近代京都の図案教育』(松尾芳樹・岡達也と共著、淡交社、2016年)、『京都 近代美術工芸のネットワーク』(青木美保子と共編著、思文閣出版、2012年)、『絵画の変―日本美術の絢爛たる開花』(中央公論新社、2009年)、『美術館の可能性』(中川理と共著、学芸出版社、2006年)など
キンダイキョウトノビジュツコウゲイⅡ
近代京都の美術工芸Ⅱ
学理・応用・経営
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体裁A5判・608頁
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刊行年月2024年07月
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ISBN978-4-7842-2075-5
著者・編者略歴
内容
幕末の開国以来、美術工芸をめぐる状況は急速に近代化を遂げる。それは現在の「芸術」のもつ流通イメージとは異なり、輸出振興や産業の活性化と密接に結びついた様相を示していた。
本書の舞台となる京都でも、美術工芸をめぐりつぎつぎと新しい動きが勃興する。しかし京都の動きは必ずしも中央政府の動向と連動しているわけではなく、地場の人びとの牽引により、独自の近代化路線を模索していた。これを京都の革新性と捉えることもできるが、しかしそれは同時に、天皇の東幸という「事件」からいかに立ち上がり、前近代から受け継がれてきた伝統産業といかに折り合いをつけるかという苦節の道程でもあった。
本書では、そうした京都特有の時代状況下で展開した近代美術工芸の世界を、「学理」すなわち当時最新の化学知識の導入と、その伝統工芸への「応用」、そしてそれらの制作者をとりまく場の「経営」という3つの観点から、総合的に描き出すことを試みる。
★★★編集からのひとこと★★★
美術工芸の近代化に貢献した化学者、とある老舗タンス店の動向、今では忘れ去られた日本画家の生涯等々……かなりニッチな論題が本書の多くを占めます。しかしそれらが寄り集まって出来たのが京都の美術工芸そのものであり、その込み入った内実を解き明かそうとしたのが本書です。
22名の論者たちが、それぞれの専門分野から、近代京都の美術工芸を語ります。
目次
はじめに(並木誠士)
第Ⅰ部 学理と応用
京都の美術工芸の近代化と化学者・中澤岩太(並木誠士)
染織産業における学者の貢献―大正期の京都高等工芸学校教員の事績に注目して(青木美保子)
日本式ジャカード織機発展の歴史とその独自性(上田 香)
甲斐荘楠音≪舞ふ≫をめぐって―水木要太郎「大福帳」の所見から(國賀由美子)
寿岳文章と向日庵本の時代(高木博志)
第Ⅱ部 美術工芸と場
京都宮崎タンス店の取り組み―婚儀道具研究会(下出茉莉)
京都の七宝業―近代七宝の技法と製作環境を読み解く(武藤夕佳里)
国画創作協会のパトロン吉田忠三郎―大正期の京都画壇へのパトロネージをめぐって(上田 文)
京都市立絵画専門学校の教職員(松尾芳樹)
京都市美術工芸学校の女子卒業生耕山細香について(田島達也)
教材としての石膏像―京都工芸繊維大学所蔵資料より(和田積希)
表装界が迎えた近代―京都表具業組合誌『美潢界』を読む(多田羅多起子)
明治時代外国人貴賓の京都訪問と美術工芸商(山本真紗子)
京都商品陳列所による外国品収集(三宅拓也)
京都大毎会館における「日本民芸品展覧会」の意義―京都ではじめて開催された民芸品の展覧会(原田喜子)
≪五条坂南側町並散華の図≫を読む―伊吹弘による鎮魂(木立雅朗)
第Ⅲ部 図案と絵画
図案の語義と概念の展開に関する研究―明治期の美術・図案雑誌を中心として(岡 達也)
染織意匠としての百合―明治期の図案資料を中心に(加茂瑞穂)
室内装飾のための図案―明治後期から大正期の花鳥図案と京都画壇(井戸美里)
『小美術』と谷口香嶠、浅井忠のかかわり(大平奈緒子)
菊池素空の生涯と芸術(前﨑信也)
醜い美人―国画創作協会の美人画と岸田劉生《麗子像》シリーズ(前川志織)
あとがき
索 引
執筆者紹介