著者・編者略歴

国際日本文化研究センター教授・総合研究大学院大学教授.専門は日本古典文学.

内容

『方丈記』において、「無常」という語はただ一度だけ用いられ、天変地異を前にあきれるほど脆い日本の家屋と儚い人の命の類比的一体性を説く。いつしか私たちが常識のように捉えるこの仏教的な無常観は、先達としての東アジアや東南アジア、さらには起源としての南アジアと比べると、どれほど共通項を有し、あるいは異にするか。はたまたヨーロッパの堅牢な遺跡の中で、それはいかなる幻想をもたらすか。日本の無常、さらには文化観の現代的な問い直しのために、多様な専門の研究者が議論を重ね、「無常」概念にとどまらず、広く日本古典文化の転変と推移、また〈グローバル〉な〈アジア〉の中での日本古典文化の解明を目指す。

目次

序論 〈無常〉の変相と未来観・叙説(荒木浩)

Ⅰ〈無常〉とは何か―その始原から現代世界へ      
anitya/anicca、無常、常なし―インド・中国・日本における無常観の変遷(石井公成) 
打ち壊される仏たち―ソリッドな〈仏〉/フラジャイルな〈仏〉(佐藤弘夫)
照らし合う母子と「無常偈」―『釈迦金棺出現図』が投影する『源氏物語』の〈無常〉の表裏(荒木浩)
戦後の近代超克論―唐木順三の無常を手掛かりに(廖欽彬)
〔コラム〕中世はいつから「無常の時代」となったのか―小林秀雄と戦後の「無常」(藤巻和宏)

Ⅱ 古代の文学と〈無常〉               
「うつろふ」事物の「無常」性―大伴家持「悲世間無常歌」の〈たとえ〉をめぐって(土田耕督)
空海「無常之賦」から考える古典の変相と未来観(河野貴美子)
「もの思ふ」人々の無常―物語の論理として(李愛淑)
紫式部はなぜ漢詩を詠まなかったのか(張龍妹)
無常と「老い」―『栄花物語』からの照射(李宇玲)
〔コラム〕『源氏物語』における宿世と無常―「女の宿世はいと浮かびたる」を手掛かりに(石原知明)

Ⅲ 中世の〈無常〉を問い直す             
「跡」の視界(木下華子)
龍神地震起因説の形成と展開―日本中世の災異文学史一斑(児島啓祐)
「露の命」考―『平家物語』における無常観の表現を手がかりに(陸晩霞)
後鳥羽上皇の水無瀬殿(水無瀬離宮)の構造と承久の兵乱後の動き(豊田裕章)
石清水八幡宮蔵「尼善阿弥陀仏諷誦文」考(中川真弓)
真言僧における夢想と宗教的実践―覚鑁と頼瑜を中心として(郭佳寧)
日元僧侶間で交わされた「六年の約」―弘安の役前夜(榎本渉)
吉田兼俱『日本書紀神代巻抄』における世界認識―クニノトコタチをめぐって(髙尾祐太)
〔コラム〕聖なる無常、俗なる折中―中世日本社会の意志決定と心性(橋本雄)

Ⅳ〈無常〉の表象と変相―古代/中世から近世へ      
無常の表象―黒白二鼠の教えと絵画(田村正彦)
遊女の〈移ろいやすさ〉をめぐって(辻浩和)
ウブメという多面体(木場貴俊)
能のシテは何を〈無常〉と嘆くのか(山中玲子)
謡曲「邯鄲」に見る二重の無常の表現(虞雪健)
中世後期における狐による病とその治療(小山聡子)
近世前期『徒然草』挿絵の影響関係(池上保之)

Ⅴ 近代と〈無常〉―夏目漱石の中へ           
頰杖の前近代と近代―もの思う者の肖像の系譜と変容(永井久美子)
夏目漱石と「無常」―無常と生成変化を中心に(プラダン・ゴウランガ・チャラン)
『方丈記』と漱石―「自然」をめぐって(増田裕美子)

Ⅵ 国際的〈無常〉論とその視界             
エンタングルメントとしての無常―古典と人間との絡み合いをめぐって(エドアルド・ジェルリーニ)
神とかけて、天と解く。その心は? ―『ルバイヤート』から考える無常における神と天への責任追及(アリレザー・レザーイ)
スーフィズムの神秘主義詩および日本の古代神話にみる時間の認識(アンダソヴァ・マラル)
Tea Ceremony and the Idea of Impermanence with Focus on Ceramic Tea Vessels Chatō 茶陶 and their Aesthe-tic Appreciation(茶道と無常の思想―茶陶の美的鑑賞を中心に)(Agnese Haijima)
Solidifying Impermanence: The Journey of the Buddha's Shadow-Image(ソリッドなる無常―仏陀の影像伝説追跡の旅)(Yagi Morris)

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