中世の禅僧たちがもっていた卓越した経営手腕や知識・技術は何に由来するのか?
本書は、禅宗寺院で経営を担当した東班衆の経済活動だけでなく、西班衆の「学問」にも目を配り、禅宗寺院や足利学校で行われた講義の口述記録「抄物」をひもとくことによって、それが中世禅宗の学問、とりわけ儒学学習と密接に関わっていたことを明らかにする。禅宗寺院では、儒学に付随して農業や数学、医学などの実用的知識が学ばれていたのである。経済活動と学問、中世禅宗の二つの側面を架橋することで、禅宗寺院の果たした役割の全体を明らかにするとともに、近世につながる科学知識の萌芽についても見通す。
【担当編集者より】
近世に儒学が盛んになることは常識として知っていましたが、中世にはどうだったのか、以前からなんとなく気になっていました。川本先生のご研究はその疑問に答えてくれるだけでなく、禅僧の儒学学習に注目することで実にさまざまな事実を明らかにしています。本のカバーに使ったのは「五蔵略図」、儒学の講釈に使われたテキストになぜ人体図が描かれているのでしょうか?気になった方はぜひ本書をひもといてみてください。
関連書籍
チュウセイゼンシュウノジュガクガクシュウトカガクチシキ
中世禅宗の儒学学習と科学知識
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体裁A5判上製・320頁
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刊行年月2021年02月
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ISBN978-4-7842-2000-7
内容
目次
序章 中世の禅宗と儒学をめぐる研究状況
中世禅宗の二つのイメージ
中世禅宗と儒学
「興禅の方便」としての宋学
儒学講義の展開と抄物史料
本書の構成
第一部 禅僧の経済活動と知識形成
第一章 南北朝期における東班僧の転位と住持
はじめに
東谷圭照の転位と住持
東西両班の人事交流と詩文応酬
おわりに
第二章 室町期における東班衆の嗣法と継承
はじめに
東班僧の嗣法関係
東班僧の継続性と追善供養
東班僧の財産継承
おわりに
第三章 禅僧の荘園経営をめぐる知識形成と儒学学習
はじめに
雲章一慶の百丈清規講と荘園経営知識の伝達
儒学学習をめぐる禅僧と実務官人との交流
禅僧・清原氏の荘園経営をめぐる協同
おわりに
第二部 禅僧の儒学と足利学校
第一章 中世後期関東における儒学学習と禅宗
はじめに
資中の儒学講義と建長寺宝珠庵
宝珠庵をめぐる儒学学習と「常陸儒檀」
常陸における学問と足利学校
第二章 足利学校と伊豆の禅宗寺院
はじめに
永享期の足利学校
宝珠庵門派と伊豆
足利学校と伊豆
おわりに
第三章 道庵曾顕の法系と関東禅林の学問
はじめに―「顕」の法系をめぐって
『千葉臼井家譜』について
「道庵和尚伝」と臼井氏
おわりに
第四章 足利学校の論語講義と連歌師
はじめに
『論語集解』と九華
足利学校と猪苗代家
大蟲宗岑と猪苗代家
おわりに
第三部 儒学に付随する科学知識
第一章 江西龍派の農業知識
はじめに―杜甫詩と大唐米
『杜詩続翠抄』の農業知識
江西龍派と歓喜寺・博士家
農業知識と現地情報
おわりに
第二章 月舟寿桂と東国の麦搗歌
はじめに
麦搗歌と鎌倉節
月舟寿桂と鎌倉禅林
月舟寿桂と足利学校周辺の人々
月舟寿桂と麦搗歌
おわりに
第三章 桃源瑞仙と武家故実の周縁
はじめに
『百衲襖』と経済上の知識
騒乱記述と漢学講義
武家の知識蓄積と共通性
おわりに
第四章 禅僧の数学知識と経済活動
はじめに
中巌円月の数学学習
数学知識の実用と発展
数学知識の継受と経済活動
おわりに
第五章 中世禅僧の数学認識
算用状と起請
桃源瑞仙の周易講義と数学認識
数学認識と須弥山世界観
おわりに
終章 室町の文化から江戸の科学へ
初出一覧
あとがき
索引
紹介媒体
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「中外日報」
2021年4月2日
中外図書室
-
『史学雑誌』第130編第11号
2021年11月20日
堀川貴司
書評
-
『日本歴史』2022年3月号(第886号)
2022年3月1日
竹田和夫
-
『歴史学研究』2022年3月
2022年3月15日
菅原正子
書評