建築分野からアプローチする近代都市史の研究の中核となってきたのは、都市計画史である。これまでその研究がもっぱら扱ったのは、構想が成立するまでであった。しかし、最近になり、その構想が、実際の生活空間に放り込まれた後の過程を詳細に辿る研究が進むようになってきた。その過程とは、最初の企てを「空想」として見立てれば、それが実際に都市空間に落とし込まれて、現実の「計画」となっていく過程だと捉えられるのではないか。そう考えると、その過程にこそ、近代都市史研究の根幹をなすテーマが見出せるのではないか。
編者・中川理のこうした認識を「お題」として、本書の25本の論考は集められた。都市を読みとく、より広範で自由な議論を立ち上げる契機とするために―。
【担当編集者より】
本企画は、発案者の中川理先生が「お題」の文章をしたため、研究仲間をお誘いするという、一風変わったかたちでスタートしました。そのねらいや内容は「巻頭言」や「あとがき」で述べられているのでここでは触れませんが、都市をめぐる議論に新たな地平を拓こうという意気込みがこもった1冊です。執筆メンバーの熱量は当初の予想を大きく上回り(短い文章も受け付けていましたが全員長文、そして全員締切に間に合う)、気が付けば750頁に……。本書から都市史の新たな展開が生まれることを期待しています。
関連書籍
クウソウカラケイカクヘ
空想から計画へ
近代都市に埋もれた夢の発掘
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体裁A5判上製・750頁
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刊行年月2021年04月
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ISBN978-4-7842-2002-1
内容
目次
空想から計画へ―巻頭言(中川理)
Ⅰ 思念―思い描いた夢
第1章 大原孫三郎の田園都市構想と倉敷の都市計画(中野茂夫)
第2章 大正期京都のロマン主義と竹久夢二(高木博志)
第3章 建築構造学者・田辺平学とその時代―20世紀前半日本の建築学の都市への関与(初田香成)
第4章 兼岩伝一の都市計画思想(高嶋修一)
第5章 坂倉準三が戦時下で思い描いた「輝く都市」―「忠霊塔都市計画」に埋もれた「ル・コルビュジエ的なもの」(三木 勲)
第6章 1900年代から1910年代の建築規則が求めたこと(西澤泰彦)
Ⅱ 周辺―夢が託される場
第7章 神戸市塩屋における外国人住宅地の開発と変容―E・W・ジェームス及び英国人資本家たちに着目して(水島あかね)
第8章 近代鎌倉の道路整備にみる「観光」と「住みよさ」の相克―日本自動車道路と新旧の住民(赤松加寿江)
第9章 巡礼と郊外―名古屋覚王山をめぐって(岩本 馨)
第10章 台湾のヒルステーション( 大田省一)
第11章 郊外は空想の跡か、残滓か ―ソウル京城・明水台住宅地と黒石洞の近代(砂本文彦)
Ⅲ 復興―自律と制御のなかで
第12章 戦災都市における復興構想と神戸の都市計画(村上しほり)
第13章 闇市転生を「空想」する―松本学の日本ヴォランタリー・チェーン構想と東京のテキヤたち(石榑督和)
第14章 戦後期横須賀における米軍属と地域住民―横須賀市秋谷地区を事例に(木川剛志)
第15章 昭和30年新潟大火復興の都市復興―戦後都市再開発の理想と現実(角 哲)
第16章 戦後岐阜市における繊維問屋関連企業による従業員住宅の建設(荒木菜見子・中川理)
Ⅳ 構造―地域と建築の変容を捉える
第17章 大阪新田地帯の近代―土地経営と地域社会構造の変容をめぐる空間論的転回(中嶋節子)
第18章 大阪・船場の改造と都市建築―第一次大阪都市計画事業における三休橋筋の拡幅を事例として(平井直樹・三宅拓也)
第19章 日本統治期の台湾における武徳殿の建設(西川博美・中川理)
第20章 台湾の伝統的環境におけるエッジとノードとしての「曉江亭」の空間構成(呉瑞真・黄蘭翔)
第21章 戦後沖縄における〈空間計画〉の夢と現実―基地都市コザを事例に(加藤政洋)
Ⅴ 交通―持ち得た役割
第22章 明治期築港の目指したもの ―東京・横浜の艀運送との関係から(中尾俊介)
第23章 近代京都の道路拡築事業と町(岩本葉子)
第24章 台湾蘭陽平野における日本統治時代の地域開発―交通インフラの整備と産業の立地による工業都市羅東の発展(辻原万規彦)
第25章 「京城」における幹線街路網建設―1930年代を中心に(石田潤一郎)
あとがき
索引(人名/地名)
執筆者紹介