古代の寺院遺跡について、実地に検討をおこない、分野の垣根をとりはらって議論できる場を設けようと、「古代寺院史研究会」は発足した。考古学・文献史学・美術史学・建築史学・地理学など、さまざまな分野の研究者が集って、遺跡を見学し、遺物を熟覧し、調査・研究について議論する会を積み重ねてきた。
本書は、主としてその参加者が執筆した、畿内・周辺地域の古代寺院に関する論考と最新の調査知見、さらに古代朝鮮・中国の寺院研究を収録し、分野横断的な視点で古代寺院史研究の新地平を拓く。
【担当編集者より】
もう数年前になりますが、本書のもととなった古代寺院史研究会にお邪魔したことがあります。朝から大阪・高槻周辺の古代寺院遺跡をめぐって長途遠足、なにやら山の上の寺院跡にも行きました。午後は、しろあと歴史館に移って遺物の見学と研究会、そして夜は古代寺院研究を肴に懇親会と、なんとも濃密な一日でした。研究者ってタフだな~と感心したものです。本書の執筆者の多くは、この研究会に集った研究者、自治体の文化財担当者で、専門も立場もさまざまです。研究のタコ壺化が言われて久しい昨今、こうした研究会には長く続いてほしいと思います。
関連書籍
コダイジインシノケンキュウ
古代寺院史の研究
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体裁B5判上製・512頁
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刊行年月2019年08月
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ISBN978-4-7842-1968-1
内容
目次
序 論 (菱田哲郎・吉川真司)
◆寺院の変遷とその荘厳
堂内荘厳の考古学―緑釉波紋塼と塼仏から(大脇潔)
三彩・緑釉塼再論(高橋照彦)
日本古代寺院における「幢」の考古学的研究(高正龍)
古代寺院の数的変遷(吉川真司)
常修多羅衆成立をめぐる基礎的考察―大寺を支える僧侶組織(堀裕)
◆山城国
高麗寺からみた日本古代の仏教(菱田哲郎)
古代・中世寺院史研究における東安寺の射程―京都市伏見区の小野廃寺について(黒羽亮太)
平安京の周辺諸寺圏(古閑正浩)
造仏の場としての法成寺の意義(根立研介)
[コラム]樫原廃寺(堀大輔)
[コラム]宝菩提院廃寺(梅本康広)
[コラム]神雄寺跡(大坪州一郎)
◆大和国
高市大寺の所在地をめぐって(小澤毅)
香山堂再考(平松良順)
東大寺法華堂伝来の天平期諸像に関する一考察(藤岡穣)
[コラム]尼寺廃寺(山下隆次)
[コラム]安倍寺跡(丹羽恵二)
[コラム]奥山廃寺跡(岩本正二)
◆河内国
古代寺院と寺辺の景観―河内九頭神廃寺周辺の調査成果から(西田敏秀)
交野ケ原の歴史地理―北河内の寺院を結ぶ(上杉和央)
生駒西麓の古代寺院の研究―河内寺廃寺跡と法通寺跡を中心に(網伸也)
河内六寺と知識(安村俊史)
[コラム]河内九頭神廃寺(西田敏秀)
[コラム]百済寺跡(大竹弘之)
[コラム]高宮廃寺跡(丸山香代)
[コラム]河内寺廃寺跡(仲林篤史)
◆行基寺院
行基建立の四十九院と開発(近藤康司)
山背の行基寺院―紀伊郡域を中心に(吉野秋二)
摂津国西成郡津守村の行基寺院(西本昌弘)
[コラム]おうせんどう廃寺・がんぜんどう廃寺(堀大輔)
[コラム]山崎廃寺〔山崎院〕(古閑正浩)
[コラム]大野寺跡〔土塔〕(近藤康司)
◆地方寺院の諸相
地方寺院の法会―伽藍配置・仏像・経典(三舟隆之)
飛騨における軒瓦の一様相(三好清超)
古代若狭における寺院造営の一様相―興道寺廃寺を中心に(松葉竜司)
[コラム]伊丹廃寺跡(中畔明日香)
[コラム]海会寺跡(近藤康司)
◆中国と朝鮮
中国における双塔伽藍の成立と展開(向井佑介)
百済寺院の立地―谷に造営された寺々(清水昭博)
新羅王京寺院の伽藍配置について(田中俊明)
新羅下代景文王の宗廟祭祀と崇福寺(井上直樹)
あとがき
寺院名索引
執筆者紹介
紹介媒体
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『日本史研究』第695号(2020年7月号)
2020年7月20日
村上孟謙
新刊紹介