1972年、大阪府生まれ。住友史料館副館長。2003年、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。主要著書:『近世医療の社会史 知識・技術・情報』(吉川弘文館、2007年)、『江戸時代の医師修業 学問・学統・遊学』(吉川弘文館、2014年)、『究理堂所蔵 京都小石家来簡集』(共編、思文閣出版、2017年)、『洋学史研究事典』(共編、思文閣出版、2021年、第34回矢数医史学賞受賞)
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近世藩医の学問と医療環境
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体裁A5判・372頁
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刊行年月2025年03月
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ISBN978-4-7842-2105-9
著者・編者略歴
内容
近世は、ごく普通の人びとのあいだでも「病にかかったら医師に診てもらう」という考えが浸透していった時代である。しかしこの時代、公儀=幕府・藩は医療知識の獲得、社会への普及・提供に積極的な役割を果たすことはなく、社会全体を視野に入れた医療システムは、ついに構築されなかった。そうしたなかで、医学の発展を主導したのは、藩医身分の者たちだった。
そこで本書は藩医たちに焦点を定め、その身分=生業の特質、知識や技術の獲得・継承と社会への普及のありようを明らかにし、さらにその実態が近代の医療制度をいかに規定し、継承されたかを論じる。
目次
序 章
一 藩医層が主導した近世医学
二 知識・技術の継承過程とその特質
三 近代医制を準備した医療環境の成熟
第Ⅰ部 藩医の身分と職分
第一章 知識・技術の所有と身分
はじめに
一 藩医身分の存在形態
二 領内医師の再生産過程
三 知識・技術の所有をめぐって
おわりに
第二章 藩医の職分とは何か─伊勢崎藩医の事例から
はじめに
一 伊勢崎藩医中の位地
二 藩医栗原氏の医療
三 伊勢崎地方における医療環境の前提
おわりに
第三章 江戸の眼病療治─福岡藩医田原養卜「眼目療治帳」を素材として
はじめに
一 天保三年「眼目療治帳」の構成
二 江戸藩邸社会の医療需要
三 都市社会に向けた眼科療治の実現
おわりに
第Ⅱ部 近世の医学教育と医療環境
第四章 地方藩医の身分存立と学統─米沢藩伊東家の事例から
はじめに
一 眼科医家里周悦の願書
二 眼科諸流の秘伝性
三 米沢藩医伊東家の系譜
四 医家相続の要件
おわりに
第五章 江戸時代の医学教育─米沢藩の事例から
はじめに
一 有壁家「当門下之法則」
二 上杉鷹山時代の医制整備
三 米沢と江戸の学問交流
四 医学教育機関「好生堂」の教育
五 水野家文書「杏陰日録」にみる江戸遊学
六 幕末期有壁家の江戸詰御用と学問修業
おわりに
第六章 鳥取藩在村の医療環境─嘉永・安政期「在方諸事控」を素材として
はじめに
一 鳥取藩領の医制
二 藩医「内弟子」という存在
三 医師「在入」の実態
四 他国医師の活動
五 安政六年のコレラ流行
六 廻村種痘の展開
おわりに
第Ⅲ部 近世近代移行期の医療環境
第七章 医療環境の近代化過程─維新期の越前国府中を事例として
はじめに
一 維新期における府中医師の活動
二 思精館から武生枝病院へ
おわりに
第八章 明治初期新川県の医療環境
はじめに
一 医務取締の任命
二 伺書と新川県の回答
三 領内医療従事者の掌握
四 新川県の種痘奨励
五 石川県時代の医療環境
おわりに
第九章 近代医制の成立と漢方医─服部甫庵の事績をめぐって
はじめに
一 甫庵の就学履歴
二 佐野における医療活動
三 服部家の相続と学問
四 維新期以降の甫庵
おわりに
終 章
一 近世の医療環境を担った主体について
二 近世の学統と医学教育機関について
三 明治初期医療史研究の可能性について
初出一覧/あとがき/索引